〔この国の領土〕6

石垣島
 古い友人に、石垣島の出身者がいる。彼は、濃い目鼻立ちに太い眉、
人懐っこい人柄でだれからも好かれる人間であった。
 だが、話の片隅に本土との格差に関する不満を僅かに匂わせるときも垣間見られたことがあった。
 そんな友人のこともあって、以前に石垣や小浜島西表島などへの旅行を
計画したことがあった。
 その時は、旅費の問題などからして、結局、台湾へいくことに
してしまったのだが、未だに行ってみたいところの一つではある。
私にとって、歴史的興味がないのに行ってみたいというところは数少ない。
ひとえに自然環境に興味があるのであり、
シーカヤックなどを楽しみたいとの願望からであるし、
若いうちに行っていたら、今頃ダイビングにはまっていた
のではないかとの思いもある。

 ところで、この島が、中国と台湾を取り結んでいることを知る人は数少ないのではないだろうか?
 周知のとおり、中台は直接貿易は禁じられている。
だからといって、人民は交易の機会を指を加えてみているわけではない。
両国にとって貿易が可能で、位置的にも便利な地域にある石垣島に目を向けないわけが無い。
中台貿易の抜け道として石垣島が用いられているのである。
つまり、形式上、中国→日本→台湾→日本→中国との貿易が行われているのである。これら中台貿易船はクリアランス船と呼ばれ、名蔵湾口に停泊し、通関手続きだけを行い出航していく。中台の政治状況とは無関係に民間交流は盛んである。
一方、石垣島にとっては、この間通関証明を発行し、入港税であるトン税が支払われる。トン税は、1トンあたり36円が支払われ、うち16円が国、残りの20円が市町村へ入る。
この石垣市一般財源に組み入れられるトン税の額は年間2億1千万にも及ぶといわれる。
いかに、民間レベルでの中台貿易がさかんであるかと、石垣経済を潤しているかが知られるのである。
 しかし、デメリットが無いはずもない。これら、クリアランス船の多くは、信じられないほどの老朽化した船舶が用いられていることも多く、座礁しては豊かな自然に甚大な被害を及ぼすことも度々であり、テレビ新聞を賑わせている。
 また、表の中台貿易だけではなく、石垣海上保安部では毎年、
大量の拳銃や覚せい剤の押収を行っている。
国境近くのこの島周辺は、裏貿易の最前線でもある。

 また、この海域が、日台の漁民にとっては、マグロ戦争の第一線であることはあまり知られていない。