昭和展 10

トランジスタラジオ

トランジスタ・ラジオ ソニー EFM 117J

昨今、松下がパナソニックに社名を改変するとのことで少しく話題となったが、東京通信工業株式会社って何だか覚えている方はどれだけおられるだろうか?
東芝東京芝浦電気、シャープが早川電気なんていうのも考えてみればそうでしたね。東京通信工業株式会社ってソニー、そう世界のソニーの旧社名です。そんなことを考えれば、松下電器株式会社という名前が残っていたこと自体が稀有なことだったのでしょうか。でも、日立なんかはそのままですよね!
誰しもが、松下が駄目ならナショナルすれば良いのにと思ったでしょうが、実はナショナル・セミコンダクターというカリフォルニアのサンタクララにある半導体のメーカーこちらが商標登録をしていて使えない、ということでパナソニックに統一する事となったようです。
話を戻して、トランジスタ・ラジオって当時は逸早くトランジスタ生産に着手したソニーの牙城だったのですね。ところが、ほかのメーカーも追随してきて価格競争となってきていた。そこで、ソニーは新しい高性能の高周波トランジスタを開発していましたが、ゲルマニウム結晶の中に不純物を多量に添加した不純物濃度の高いエミッタ領域を形成した高周波特性の良いトランジスタの開発を目指していたのです。この過程で、従来エミッタ側の不純物としてアンチモンを使用していたのに替えてリンを採用したところ、それまででは考えられないほどの高周波特性が得られたのでした。これを実用化することによって、従来の中波放送から、FMや短波も受信出来るものと考えました。しかし、ここに予期せぬ事態が待っていました。それは量産体制を整えていく中で起こりました。ベースにリード線を取り付けると90%もの製品が不良品になってしまうのです。そして、すぐにエンジニアが総動員され連日対策会議が開かれましたが良く分からない。結果、この時点では生産に間に合わないため、これまでの2T7型に戻すと決定され、その一方で不良となった製品の原因究明が進められました。リンの濃度を変えて特性の測定が繰り返し行われました。この測定にかりだされたのが、当時研究課にいた江崎玲於奈等でした。江崎等はリンの濃度を高めていくと異常な現象が起こる事に気づきました。それは、通常これらのP−N接合ダイオードでは順方向に電圧をかけていくと逆方向ではほとんど電流を通さないという性質を持っているのですが、このリンを高濃度に加えたモノは順方向よりも逆方向で電流が大きく、しかもグラフに描くと順方向電流の特性にコブのようなカーブが生じることが判明してきました。これが、後のノーベル賞受賞のエサキダイオード(トンネルダイオード)の発見の入り口となった訳です。この製品の不良もリンの濃度をある値以下に抑えれば解決することが分かり、性能の良いトランジスタが量産できるようになりました。しかし、江崎はこの謎の追及にあたっていきます。そこで、江崎はまずこのコブ(負性抵抗)の解明に当たりました。量子力学によれば、物質は波としての性質を持ち、エネルギーの山があっても、この山をトンネルを通るように粒子が通り抜けて向こう側に現れるトンネル効果というものが知られており、江崎はこれがまさにトンネル効果が起きているのではないかと考えた。そして、加える電圧を増すと逆に電流が減るという、負の抵抗を持つ新しいタイプのダイオードを作る事に成功したのです。
江崎の発明は、国内での反響は極めて冷淡なものであったようです。そこで、江崎は1958年6月のブリュッセルで開かれた「国際固体物理会議」で講演を行う事となりました。この会議では、最初にアドレスと呼ばれる議長をトランジスタの発明者の一人であるショックレー博士がつとめ会議の内容を概要を紹介しました。500位もある演題の中から、ショックレー博士は「エサキ」「エサキ」と連呼したそうです。ショックレー博士は、エサキダイオードが将来有望な高周波デバイスとしてこの発明を高くかったのでした。そして、このエサキダイオードは、負性抵抗を持ち、トンネル効果が非常に速い現象であることから、高い周波数の発振・増幅・高速度スイッチング等の回路素子に利用が出来、コンピュータの演算速度の向上に応用できると考えられたのです。
そして、この世界的発見が、大会社でもトランジスタの専門の研究所でもないソニーで行われたことに対して大きな評価がなされたのでした。
以上、この広告に書かれている「エサキダイオード」の生み出された背景でした。
因みに、私が持っていたのは、EFM 117Jの後継機種のTFM-110でした。

http://www.kahaku.go.jp/exhibitions/tour/nobel/esaki/p1.html

http://www.city.yokkaichi.mie.jp/museum/tenrankai/071222.html