江戸 あれこれ 5  くりからもんもん

くりからもんもん!

 今では、あまり見かけられなくなったが、一昔前では公衆浴場や温泉などで湯に浸かっていると、背(せな)いっぱいに、「ほりもの」をほどこした「ドス」の効いたお兄さんや、歳のためひしゃげちゃって、ほっぺの弛んだ般若面のを背負うお爺ちゃんなんかが入ってきて、何となく、皆が少し距離を置くようなことがみられた。この彫り物を「くりからもんもん」というである。
一体何語?
 れっきとした日本語である。「倶梨伽羅紋紋」と書く。
 入れ墨はもともと罪人の烙印であったが、江戸の侠客には彫り物をする者が多く、それが次第に、粋で気風を売り物とする鳶や大工、駕籠舁や船頭などにも拡がり、次第に華美で一層派手なものとなっていった。
 風紀を乱すとして、お上(おかみ)から禁制も出たが、武者絵を得意とする国芳が「通俗水滸伝豪傑百八人之一人」の百八枚のシリーズ出し、登場人物に迫力のある彫り物を描き出すと、それが江戸っ子にめちゃ受けし、彫り物の図柄の定番となっていった。
 彫り物を「倶梨伽羅紋紋」というのは、倶梨伽羅龍王を描くことが多いからこういうことになったのである。決して、外国語ではないのだ。

 昨年やった展覧会で、1960年代を振り返った。その中で、権利関係から文字でだけでしか触れられなかったが、東大紛争の時に「止めてくれるな おっ母さん 背(せな)のイチョウが鳴いている」として、かの一世風靡をしたイラストを描いた橋本治が、げに今の流行作家の橋本治と同一人物だと知った時は、ビ〜ックリでした。桃尻娘に、上司は...のシリーズでしょう!