江戸あれこれ 9

いなせ

 これも、なかなかに説明しがたい江戸の美意識であろう。誤解と、誤謬を恐れずにあえて説明していかなければならないであろう。
 粋とも微妙に違う。
 今でも、白足袋に半纏をまとい、ねじり鉢巻をきりりとしめた若者の姿を称して、いなせだという。
 江戸では、粋で男伊達の気風をそなえたものを「いなせ」という。「イナ」とは出世魚のボラ(鯔)のことで、地方によりいろいろ呼び名は違うが、江戸ではオボコ(またはクチメ)→スバシリ→イナ→ボラと名前を変え、最後にトドとなり「トドの詰まり」となるわけである。日本橋の魚河岸で働く若者達が結った髷の形を称して「鯔背銀杏」といい、この若者達を「いなせ」といったというがほかにも諸説ある。
 男伊達の気風とは何を意味するのか。要は、男としての面目を重んじるのであり、強きをくじき弱きをたすく。仁義を重んじ、身を捨てるも惜しまない気風を有しながら、かといって無茶な男でもない。
 「佃節」に、いきな深川に対して、いなせな神田とある。要するに職人町の美意識といえるであろう。そのような人々は、気風もであるが、容姿、風体にも気を使い、髷も、履物(いなせ下駄)も、種々の小物にも気を使ったのである。